注染の紹介
About Tyusen

注染とは、折り重ねた布に裏表から染料を注ぐ染色の技法のこと。 明治時代中期に大阪で生まれ、現在も日本手ぬぐいや浴衣の染色など、日本各地で行われています。特にここ堺市に伝わる注染の技法は、多彩な色の組み合わせや、色の濃淡をつける“ぼかし”により立体的な絵柄を描くのが得意です。 工程は全部で4つ。“この道何十年”というベテラン職人がそれぞれ分業で行なっています。 自ら苦労して培った技術は、どんな機械よりも正確。 難しい作業を迷いなく進める姿は、まさに長年の経験の賜物です。

布の上に図柄を模った型紙を被せ、染色しない部分に木べらで特殊な糊を塗ります。糊を塗った部分には染料が浸透しないため、生地は白地のまま仕上がります。 糊を塗った生地の上に、さらに生地を置いて同じ作業を50~60回繰り返します。ここで少しでも生地がずれると柄がつぶれ染料がうまく浸透しないため、横幅を揃えながら丁寧に折り返し生地を積み重ねていきます。

この工程は「板場」と呼ばれる職人が担当します。 今は「染める作業をしたい」と言う人が多いけど、昔はこの「板場」が染色の花形やったんです。注染の工程の中でも一番難しいと言われる作業で、一人前になるには10年ほどかかります。 一見すると、木べらを自由に操り軽快な作業に見えますが、糊は粘り気があって重いから均等な厚さに塗るのは一苦労!実はかなりの力が要るんです。俺も最初の頃は、一日作業しただけで筋肉が張って肩や背中がパンパンになってましたわ。よう見ると、木べらが職人の手形に変形しているのが分かります。皆、それだけ力込めて心込めて作業しているんです。

染料の広がりを防ぐため、染色する部分を糊で囲み土手を作ります。 そこへドヒンと呼ばれる金属製のジョーロを使い、生地に染料を注ぎこみます。と同時に、下からもポンプで染料を吸い込み、一気に均等に色が浸透させます。この作業を裏表から行うことで、両面がしっかりと染まります。また、複数の色を染め分けたり、ぼかしを入れて色をグラデーションさせたりする場合は、色ごとに糊で土手を作り巧みに染め分けます。

色を調合し染める職人を「壺人」といいます。昔は「つぼんど」と呼んでましたけど、それが微妙に変化して今では「つぼんだ」って呼んでます。 染料は空気に触れて酸化すると微妙に色が濃くなるんです。だから注文通り色を染め上げるのはほんまに難しい!やっぱり長年の経験がものを言いますね。ベテランの職人は色を見ただけで瞬時に染料の組み合わせを判断します。何十年とかかって積み重ねた経験の賜物ですわ。

染め上げた生地を水で洗い、余分な染料、糊を落します。今は工場内の水洗機で行なわれますが、その昔は工場の向かいを流れる石津川で行われ、川の水流にゆらぐ晒はこの地域の風物詩になっていたそうです。

元々川で生地をゆすいでいたことから、この工程を担当する職人は「川」と呼ばれています。20mもの長さの生地ですから、単に水洗機にかけてしまったら絡まってとんでもないことになります。絡まんよううまいこと生地を捌くのが、川の職人の腕の見せどころです。

円心脱水機にかけた後、洗いあげた生地を乾燥台から吊るして自然乾燥させます。風になびかれた生地は、夏であれば30分、冬であれば90分程度で乾きます。

昔は天井に丸太の木を並べて、そこに干していました。それを「立て」と呼ぶので、この工程は「立て干し」と呼んでいます。